(平成17年10月)No.58

 
 
富士電子工業株式会社
取締役会長 渡邊日吉
 
 
  訪欧雑感

 今年の5月に在欧の友人たちを日本に招待し、国内の観光地を巡りながら、政治・経済・文化・工業の現状分析や、将来について話し合う計画をしましたが、スイス・チューリッヒに住む友人に健康上(歩行)の理由が発生し、「君がヨーロッパに来ることが最も有効な解決法だ」ということになり、6月11日より6月18日までの予定で、フランス、スイス、ドイツの3ヶ国を訪問する事が決まりました。宿泊地はパリ、チューリッヒ、デュッセルドルフと、技術提携先であるエロテルム社の在所であるレムシャイド市としました。一人旅であり、多少の変更は現地で如何様にでもなるだろうと、主要な部分だけ決めての出発であります。
 私が海外旅行を初めて経験したのは、昭和46年9月25日羽田発日本航空DC-8機でのモスクワ行きでありました。東工大・河上益雄先生が団長で、世界の金属熱処理の技術と公害対策の現状視察が目的でありました。ソ連、ポーランド、チェコ、ルーマニア、東独、西独、フランス、英国、アメリカと、観光だけのハワイ泊を含め30日の旅程でした。総ての見聞が新鮮であり、伝統文化、芸術、歴史遺産、街並みや生活習慣まで、レベルの高低はともかく、国際感覚の重要性を認識する毎日であったことは、今も瞼の底に焼き付いております。
東、中、西欧の訪問は39才のこの時を初めに家族旅行を含め80回以上になりますがその殆どが西独、英、仏、伊、スイスでした。オランダ、ベルギー、スペイン、オーストリアも数回訪れましたが、点でしかなく線や面という訳には参りません。

 大阪商工会議所は近畿商工会議所連合会と共催で、2004年10月9日から20日まで「拡大EUビジネス環境視察団」をチェコ、ポーランド、ハンガリー、オーストリア、イタリアの5カ国に派遣しました。私も八尾商工会議所前会頭とし、今回団員として参加いたしました。04年5月、新たに10カ国を加え25カ国に拡大した欧州連合(EU)は人口4億5千万人、世界GDPの4分の1を占める巨大市場となり、各国から注目を集める市場の実情やビジネスチャンスを見出し得るか、その可能性を探る目的での視察団でありました。
 社会主義国時代のチェコ、ポーランド、ハンガリーとは隔世の感があり、明るく活気に溢れた市民生活が営まれている様でした。

 チェコは1989年ビロード革命後、1993年1月スロバキアと連邦を解消、人口1,020万人、新首相スタニスラ・グロスさんは34才、経済担当副首相はヤーン氏34才、法相33才、財務相は32才とのことです。首都プラハは悠然と美しい古都の佇まいでありました。

 ポーランドは面積31万ku、人口3,900万人、国土の80%が標高200m以下の平地だそうです。首都ワルシャワは33年前とは全く異なる復興した近代都市でありました。ワルシャワ近郊のグロジスク・マゾヴイッキー市、市長は緑豊かな都市型の市にする為に経済産業特区を造成して積極的に企業誘致をすると、熱心に語り、自ら街の名所である「ショパンの家」へ案内、自身即興のピアノ演奏、そして工場見学への同行、昼食会の開催、街の名物の菓子を紹介する等、その熱意に感心させられました。また、「社会主義を経験しない日本は幸せだ、私達は社会主義時代に長い時間休んだから今からしっかり働くのだ」と、話されたのに心情的共感を覚えました。
ドナウ河を挟み宮殿と議事堂を配するハンガリーの首都ブタペストも優雅な街でありました。

 オーストリアのウィーンは何度訪れても魅力の尽きない街です。今回は静寂な住宅地域にある梅津特命全権大使公邸に於いて、公使、一等書記官も同席された懇談会と晩餐会に招待して頂きました。献立表は七つ桐の紋章入りで、料理のおいしかった事と訪問時のマナー、訪問者簿に記帳する手順など、大変有意義な勉強をさせていただきました。
ウィーンからバスでスロバキアに日帰り観光をしました。日曜日の故か街行く人もチェコに比較すると少なく中世の城跡や教会、演芸場等の史跡を観光しましたが、政治体制が変わると市民生活も変わるのを実感致しました。

  今回訪問した3ヶ国は西欧に隣接しEU域内に入った経済効果は大きく、特に通関の廃止による物流の効率化の効果は顕著で、西欧市場への供給基地としての価値が上がった事は明らかです。西欧との所得格差も大きく、低い労働力を売りに投資や企業誘致を致しておりますが、社会保障制度の見直しと、管理者、技術者の養成を急がねばなりません。
独、仏も自ら定めたEUの財務条件をクリアーする事にもっと真摯に取組むべきです。フランスやオランダのEU憲法批准を問う国民投票は大差で否決されましたが、このことは統一連邦国家となる為の憲法を両国民は個別国家として明瞭に反対だと意思表示した事になります。英、独、仏はイランの核問題の制御も不可能の様です。独の政情も極めて不安定です。中国の資源の買い漁りは鉄鋼原料や原油の価格高騰を加速し、国連はこれ等の統制能力に疑問が残ります。粗鋼生産量が今年度3億4千万トンになる中国や、半ば独善的なロシアの動きも心配の種です。日本はもっと戦略的に危機管理を進捗せねばなりません。 未完

 
 
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